Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    “ノン・カロリーな素顔vv”
 



 住宅街やら文教地区やらを歩いていると、どこからともなく金木犀の香りがする季節と相成り。頭上を見上げれば、空は高いな大きいな。昼間のうちはまだ半袖でも平気、ちょこっと駆け回っただけで汗もかくよな気温ではあれど、夏場のあのべったりした湿気はとうに消え去ってて。朝晩は随分と気温も下がって来ましたよねぇなんて、テレビの天気予報士のおじさんが、どこやら高原のコスモスとかを背景に従えて、嬉しそうに話してたりする今日この頃。

  「………あ。」

 通学路に指定されてる舗道の途中。何にか気づいたという体で、不意に立ち止まった男の子が一人。周囲を元気よく撥ねるように駆けてく仲間たちからどんどんと引き離されてもお構いなしで、立ち止まったまま、辺りをキョロキョロ見回している。三年生は今日はお昼までだったので、給食の後、掃除当番じゃない子らは、同じ方向同士で固まっての家路につく。最近は何処ででも何かと物騒になったからと、都心に近いベッドタウンだとはいえ、たいそう長閑なこんな町でも一応は“何かしら対策を取りましょう”という気運も高まっており。せめてお子様の帰宅時間が近づいたら、出来るだけ表へ出てやってあげて下さいという運動が始まったそうで。そんなせいか、放課後の街路の辻ごとに、大人が立ってるようになったみたいで。

  ――― そんな中を ほてほて・とことこ。

 ちょっとはお兄さんになったといっても、まだまだ愛らしいストライドで、パタパタとアスファルトを叩きながら駆けてくお元気さんたちの通り過ぎた後を、もっとちんまりした子供のいかにもな足取り、待って待ってと先をゆくお友達を懸命に追ってる小さい男の子の姿が、住民の皆様の眸を引いてやまなくて。
「あらあら、お帰りなさい。」
「転ばないように気をつけてね。」
 名前までは知らないが、いつもこのくらいの時間に此処を通る男の子。この曜日のこの時間だと三年生だろうに、もっとちんまり、ずっと小柄なお子様で。まだまだ幼いお顔は、潤みの強い大きな瞳といい、ぷくりとした口許といい、女の子だと言っても通りそうなくらい。浅い緋色のカーディガンがよく映えて、はんなりと甘やかな印象がして、ただただ稚
いとけなく。ふわふかで柔らかそうな くせっ毛を、ひょこひょこと揺らしもって駆けてく様もどこか覚束ない、何とも愛らしい坊やだけれど。大人からすりゃ“可愛いわねぇ”で済むものの、子供同士の世界では“物の役にも立たん”と弾かれる、所謂“おみそ”な子でもあるものか、いつもこうして出遅れている。とはいえ、置いてけぼりをされたのかな?と心配するのは、お出迎え“初心者”ママである証拠。

  「坂は走るな。お前いつもコケるだろーが。」

 そんなお声が前方から掛けられて。そっちを見やれば、同級生だろうお友達が、坊やが追いつくのをちゃんと待っててあげている。そちらの子もまた、なかなかに人目を引く容姿をした、特長のある坊やであり。こちらはストーンウォッシュのデニムシャツをTシャツに重ね着た、マニッシュないで立ちがシャープな装い。秋めいて来た陽射にきらきら、坊やの頭で冠みたいに光るのは、蜂蜜色の金の髪。あんな小さいのにもう染めているのかしら。いやいや元かららしいわよ、ほら眸の色も透き通ってて。まあ、なんて可愛らしいvv でも、欧米系のハーフって面差しじゃあないのよね。そうなのよね、目鼻立ちはキリッとしてるけど、線も細いし…ずっとゆずってクォーターとか? 通りすがりのよそのお母様方が、そんな風に自分たちへ好奇の目を寄せておいでなの、こっちもこっちで、もうすっかりと慣れちゃった二人の坊や。特に愛想を振るでなく、そのまま並んで歩き出す。

  「どうしたよ、あんな途中で引っ掛かりやがってよ。」
  「あのねあのねvv どっからか、すっごい いいによいがして来てたの。」
  「ああ、金木犀な。」

 季節は違うがヒマワリみたいに、にこぱっvvと無邪気に笑った小さなお友達の、ちょっぴり舌っ足らずな声へと応じるは。こちらさんもまだちょこっと高いめの、よく通る伸びやかなお声。可憐な風貌には少々ミスマッチなんだけれど、それにしては物慣れた様子のぶっきらぼうな口利きをしつつ。小さなお手々でお友達のおでこに浮いた汗、タオルハンカチでぐいって拭ってあげるところは優しくて。

  ――― もう咲いてんだな。
       うんvv いいによいだからセナ大好きvv

 身長差はそんなにない筈なんだのにね。片やは てことこ、跳ねるような歩き方になり、もう片やは すたすた、なかなかに颯爽としているのが、何ともまた対照的で。花に例えりゃ春蘭秋菊、いずれが桜かカトレアか。今にも黒みがうるうると、滲み出して来そうなほどもの大きな眸が いや愛らしい。パステルタッチの綿あめみたいな あどけなさを目一杯、るんたったvvと発揮しているのがセナくんならば。こんな小さいのに何でだろうか。ツンとお澄ましの偉そうな態度、いかにも強気で利かん気そうな印象しかしない妖一くんだってのにね。戯れにちょいと顎を引き、上目遣いなんてして見せたりすると…あらあら、たちまち ちょっぴり妖冶な色香の滲み出す、不思議な坊やだったりし。小さな背中にそれぞれ躍る、黄色いカバーのランドセルも。彼らにかかれば、あら不思議。天使の羽に見ゆるほど。筆箱かな、お道具箱かな。かたかた当たる音させもって、ゆるやかな坂道、てことこ下れば、
「あ、いいなぁvv
 オルガンの音が聞こえて、立ち止まったのはセナくんの方。通りかかった幼稚園のお庭。水色の金網フェンスの向こうでは、お迎えを待つ子らが何人かいる中、お遊戯だろうか、ダンスを練習中の子供らもいて。
「なんでガッコは、お遊戯、一年しかやんないんだろ。」
 輪になったり、向かい合ったりして。彼らより小さなお子たちが、少々リズムから外れながらも両手を上げたり下げたりするの、じぃっと見つめてるセナくんの言いようへ、
「あんなもん、年少組の段階だけで十分だっつーの。」
 ヒル魔くんの方にとってはあんまりいい思い出ではなかったか。少々眇目になって、呆れたような言いようになっており。

  「え〜〜〜っ? なんでなんで? 楽しかったよぉ、キノコのダンス。」
  「だ〜〜〜っ! 思い出させんなってのっ!」

   …キノコのダンス。

  「うっせぇぞ、そこっ!/////////

 あははvv 顔が赤いぞ、ヨウイチくんよvv そういや…意外すぎて時々忘れるけど、あんたたち同級生なんだったわねぇ。そんでもって、幼稚園も同じところに通ってたんだよねぇ。
「そですよvv
 セナくん、にゃは〜vvとそれはいい笑顔になり、
「キノコのダンスは年長さんの時のおゆーぎで。キノコのこ〜の子、元気な子…ってお唄に合わせて、皆で踊ったですvv
 やっぱりアレかvv しかも、セナくんが踊ったということは…♪

  「あれは“羞恥プレイ”以外の何物でもなかったぞ。////////

 おおう。小悪魔様ったら、言う言う。
(苦笑) あんないかにもな“お遊戯”を自分も一緒に踊っただなんて、思い出したくもねぇとお顔を歪めるヨウイチくんだってのに、
「え〜? 楽しかったよう。」
 珍しくも引かないセナくんだったのは、
「あんねあんね、こないだのにちよーにねvv 進さんがセナのお家まで遊びに来てねvv
 おや、あのお不動様ってば、やっぱり大学部の練習のほうへ素直に混ざりに行くのを選んだかと。この言い回しだけでそういう顛末を読み取れた辺り、相変わらずに子供離れした蛭魔くんだったりし。現在の日本の学生アメフト界でのナンバーワン。海外にまでその名が知れ渡っているラインバッカー・進清十郎さん。彼ほどの実力の持ち主であれば、そのまま推薦を受けて進学出来る大学部もまた、アメフトで有名なチームを持ってる学校だったので、さて。秋のシーズン本番を前にして、そのまま素直に大学部のチームに合流し、練習に混ぜてもらうことで早めにレベルを合わせる調整をし始めるか、それとも。負けたらそれまでのサドンデス、勝ち上がるしかない真剣勝負ばかりが続く、高校選手権のトーナメントへぎりぎりまで参加するか。少々迷っているような言い方をしていた筈だったのにね…と、過日のやりとり、思い出しての推察で。そんなことには勿論のお構いなしで、
「でね? セナの幼稚園の時のでぃー・ぶい・でぃー、一緒に観てたんですけども。」
 くふふぅvvと お口の傍へ小さな“ぐう”を二つも寄せもって。セナくんが照れながらも言うにはネ?
「キノコのダンスのお面がまだあったの。そいで、それを頭につけて、テレビの前で画面と一緒に踊ったの。」
 そしたら、あのね?
「凄い凄いって。じょーずだったよって、進さんが褒めてくりて。/////////
 そいでね、あのね? 進さんたら、お膝に抱っこしてくりて、ぎゅ〜〜〜ってしてくれたの〜〜〜vv/////// と。ご本人は至って幸せそうに語ってくれたが、
『そのまま絞め殺すんじゃなかろうかって、いつもハラハラさせられてます、はい。』
 よくぞ同行しておりました、桜庭さんがそんな風に付け足してくれたからには。
「…あの進がねぇ。」
 全国レベルで向かうところ敵なしのスーパープレイヤー。妖一くんのお父さんやあの歯医者さんコト阿含さんたち“黄金世代”が、現役選手として活躍していた頃に居合わせていたなら、さぞや面白い名勝負がたんと見られたことだろにと、その筋の通の人たちがいつも言ってるほどの、将来の日本のアメフト界を背負って立つ、希代の名選手…だってのに。いいのか? そんなんで。
(笑)

  「…想像が追いつかんぞ。」

 そういう肩書までは知らずとも、あの…表情筋までアメフト向きにしか動かないように鍛えちまってんじゃなかろうかと思えるほどの、アメフト一筋な仁王様が。こ〜んなおチビさんのお遊戯に感動して、感極まって抱きしめてくれちゃったと言われても…ねぇ? どう感銘しろと言うのだと、むむうと難しそうなお顔になってしまった妖一くんの背後から、

  「まったくだ。」

 そんなお声が唐突に割り込んだものだから、

  ――― え?

 ぎょっとしたおチビさん二人、一斉に声がした同じ方向を見やって…わあとこれまたお揃いで、お口を真ん丸に開いてしまった。

  「…ルイ?」
  「葉柱のお兄さん…。」

 少し伸ばした真っ黒な髪を、ワックスだかいう整髪料できっちり整え。膝下まであろうかという白くて長い詰め襟の制服、屈強精悍な肢体へ颯爽と着こなして…いるのがいつものカッコの、二人に共通のお知り合い。賊徒学園という高校に通う、葉柱ルイさん、その人で。今日もやっぱり、白ラン姿ではあったけど、今日は何だか…様子がおかしい。まず第一に、ご自慢の足代わりのオートバイを、乗らないで手で押してるっていうのが異様であり。髪も乱れて、制服もあちこちが汚れてる。お顔や手にも汚れは及んで。しかも…、
「何で、こんな…あちこち怪我してるかな。」
 妖一くんの反射・反応が少々遅かったのは。口の端やら頬骨の端などなどあちこちに、生々しい擦り傷作ってたお兄さんだったのへ、唖然呆然としていたかららしく。我に返ってそのまま、ぱたた…っと駆け寄り、今度は間近から見上げた相手へ、
「こんな裏道押して来たのは、賊学の舎弟に見つかったらヤバイからだな?」
 あいつら絶対、誰にやられたんすかって訊いて、きっと報復するだろし。そうと続けた坊やだったのへ。葉柱のお兄さん、ギョギョッと虚を突かれたというような眸の見張り方をして。それから、
「…何でもお見通しかよ。」
 まいったなと、視線を逸したそのタイミング。大きなバイクのハンドルを両手で握ってたお兄さんだったから、隙を突きやすかったのか。学ランのポケットへと素早く手を突っ込んだヨウイチくん、
「あ、こら。」
 掴み出したのは、携帯電話。慣れた手つきで操作すると、待つことしばしの…ほんの数秒。
「…あ、高階さんですか? ヨーイチです。あのあの、ルイがなんかケンカしたらしくて、そいでぼろぼろにやられてて。…はい、何かバイクに手を出されたらしいです。」
「………う☆」
 だから、小者相手だと流すことが出来ずに反撃したんだろうってことくらい、見え見えなんだよと。逼迫した口調の会話とは別口、目許をちょいと座らせて、そんな心持ちを表情に乗せれば、
「〜〜〜〜〜。」
 それをまた、きっちり読み取ってのことだろう。何とも言えないお顔になった、葉柱のお兄さんだったりし。
“うや〜〜〜。凄いんだ、ヒユ魔くん。”
 さすがにセナももう慣れたから、葉柱のお兄さん、見ただけで“怖い”とまでは思わなくなってたけれど。そんでも…こーこーせーの大きいお兄さんだし、アメフトのきょーごーチームのキャプテンしてて、進さんと同じポジションの、そりゃあ つおいお兄さんだってゆーのは、ちゃんと覚えてもいたから、あのね? ヒユ魔くんたら、わざとに怒らせるような言い方で喋るのって、怖くないのかなぁって、いつもいつも思っちゃう。ほえ〜〜っとちびセナくんが感心している間にも、てきぱきと誰か大人の人と話してた妖一くん。一通りの手配を済ますと、携帯をパタンとワンアクションで閉じて、
「…すぐにも来てくれるってよ。」
 バイクも積める、大きめのボックスカーで来るってサ。苦いお顔のお兄さんへとそうと告げ、それから、
「セナちび、お前も待ってろ。こっから一人で帰すって訳にも行かないからな。」
 一緒に乗ってけと、もうすっかり、陣頭指揮官に収まっておられて。

  “ヒユ魔くん、凄い〜〜〜。”

 まるで大人の人みたいだと、セナくんが感心しまくり。それを聞いた進さんに、要らぬ対抗意識を抱かせてしまった…なんてのは、これもまた後日のお話だったけれど。大好きなお兄さんの痛々しい姿が、こうまでさせたんだとは、いくら仲良しさんのセナくんでも、そこまで推し量ることは出来なかったみたいです。







            ◇



 一応まだまだ未成年で学生さんの坊っちゃまだから。喧嘩だなんて騒ぎを起こせば、お忙しくて不在の親御さんに代わって、叱るなりクギを刺すなりするのももしかして、執事さんのお仕事だったりするのだが、
「大体、こんな時期に何やってるかな。」
「うっせぇなっ。向こうから突っ掛かってくんだから しょうがねぇだろがよ。」
 自宅へ着いて早々に、自分のは掠り傷で、それよかバイクが心配だ…なんてな、大きく振りかぶって順不同なことを言い出したのを。恐らくは此処も殴られていようと目串を刺したるみぞおちへ、結構堂にいった構えからの“スパイラル・スクリューフック”をお見舞いしてやった妖一くんであったりし。
『………うっ☆』
 小さな子供の小さな拳ででも、既に痛かったところを叩かれたらそれなりに痛む。大きな両手で腹を押さえて、その場へ膝から落ちかけたところを、玄関前まで出迎えに出て来てた執事の高階さんが難無く受け止め、そのままルイ坊っちゃんのお部屋へ直行。今現在に至ってたりし、
“ヨウイチくんに任せておいた方が、坊ちゃんも大人しく従ってくれそうだな。”
 篠宮さんが怪我の手当てをし終えるのを待ち、その後は。若い方々にお任せ致しますねとばかり、さっさと退場してった大人の皆様だったりし。
「シノブさんとか、まだ大会中だってのに。」
 自分はもう引退したからって、何やってもいいってもんじゃあなかろうよと。今、不祥事を起こせば、大会に参戦中の後輩さんたちにまで及ぶんだぞと、判り切ってることを言い置けば、
「その点は大丈夫だ。」
 やっとのこと、男臭くもにやりと笑った総長さん。
「向こうは二十人以上はいたからな。たった一人を相手の喧嘩、自分らの方がさんざんな怪我させられましたとか、次から次で伸されましたなんて届けたら、処分受けるのどうの以前に、あとあと此処いらを歩けなくなるってもんだ。」
 そういうもんか?と、怪訝そうなお顔になったヨウイチくんへ、そういうもんだとあっさり返す。
「こっちを葉柱ルイと判ってての難癖つけだしな。」
 大方、来年からのここいらの顔になりたい連中で、今のトップを倒すのが一番手っ取り早いって思ったんだろな。そんな風に洞察したらしい葉柱の、正に言う通りなんだろなと、そこは妖一くんにも判ったが、
「いくら手強いからって用心してのことであれ、限度があろうにな。」
 そんなまでの数でかかっていては、勝てても威張れた話じゃあない上に、あっさりと負けてりゃ世話はない。そこを差して、からから笑った総長さんへ、

  「…ばかルイ」
  「なんだと…、お☆」

 普通に腐されたと思っての素早い反射は、喧嘩した直後で興奮状態になったからだったが。話の途中から、席を立ってた坊やだったものが、すぐさま、懐ろへ乗り上がり、ぽそりと凭れて来たその温みには。意外性もあってのこと、不意を突かれて…言葉を失う。ふわふわで頼りない頬が、こちらの堅い胸板へと擦り寄って、

  「うっかり忘れてたじゃんかよ。」
  「何をだ。」
  「ルイが喧嘩っ早いこととか、この辺の族の頭だってこととか。」
  「…普段の俺って、そんな腑抜けかね。」
  「そういうんじゃなくて。」

 言葉がうまく通じないことをむずがるように、小さな肩が、金の髪が、ふるるっと揺れる。まるで、がんぜない幼子が地団駄を踏みたいかのようにも見えて。この…日頃はあんなに冷静で賢くて、何にも動じないで澄ましてる子がと思えば。そんなまで激嵩しているのが、誰の何に向けて心配したからかと思えば。おかしなもので、優越感とでもいうものか、ほややんと胸の奥に温かな何かが灯ったようで、何とも擽ったい葉柱で。とはいえ、
「日頃のルイは、柄にないほどロマンチストでドリーマーで。小姑みたいに説教好きだったから。」
 だから、喧嘩の腕っ節がダントツで強いこととか、危ない連中からは隙あらばって狙われてることとか。すっかりと忘れてた…だなんて言い出す坊やへは、
「こらこら。」
 そこはやっぱり、そこまで言うかと眉をぐぐっと、恐持て角度で顰めたお兄さんだったのだけれども。

  「だってよ。ユーミンが好きで、
   埠頭を渡る風とか砂の惑星とか輪舞曲とかデスティニーとか、
   i-Podとかに必ず入れてるし。」
  「う…☆」

 あと、太田裕美も好きで、九月の雨とかさらばシベリア鉄道とかも入れてるし。何で知ってやがる…じゃねぇ。そりゃああれだ、兄貴のお下がりだったんで入ってたの消してねぇってだけで。

  「甘いもんも大好きで、
   勘違いしてか、俺へってランチとかについて来るプリンとかケーキとか、
   譲ったら喜んで食べてくれてるし。」
  「べ…別にいいじゃんか、甘いもん好きでも。/////////

 お前こそ、怖いもの知らずに見せといて、実は凄げーナチュラルにお化けが怖いくせしてよ。あー、それを言うか、子供苛めて楽しいかっ! 都合のいい時だけ“子供”になんなっ! 悔しかったら なってみな、未成年っ! なんだとぉっ! まだ酒呑んじゃいけねぇのに、そういう時だけ“もう子供じゃねぇ”なんて言い出す奴には言われたかねぇょっ!

  “…おやおや。”

 その“甘いもの”を二人分、ティーセットとともにワゴンへ乗せて、運んで来た高階さんが。喧々囂々、廊下まで轟くほど筒抜けの大喧嘩を耳にして、ドアの前でどうしたものかと苦笑する。階下のテラスでは、今日はお家に入れないシェルティのキングちゃんが、大好きな妖一くんが来てるのにな、遊びたいなとお二階の窓を見上げており。………いい加減、見苦しくも聞き苦しい喧嘩はやめた方がいいと思うぞと、窓辺へ寄って来てたトンボが、勢いに追われて立ち去りつつ、そんな風に思ったかもの、秋の昼下がりのことでした。



  〜Fine〜  06.10.10.


  *何か、タイトルつけた時に考えてた話と
   大きく違った展開になってしまっちゃいました。
   題名つけるのって、いつまでたっても難しいです、はい。
(苦笑)

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